将来の夢がある人は、その夢が現実することを想像したり、夢について語ったりするとわくわくしたり楽しい気持ちになったりすると思います。
その「夢を持つ」「夢を語る」ことについて、若き日の豊臣秀吉(とよとみひでよし)につぎのようなエピソードがあります。
豊臣秀吉が織田信長に仕えていて、それもまだ身分の低いころ、秀吉の家に友人が集まりました。
男たちは酒を酌み交わし、自分の出世や将来のことについて、熱く夢を語り合いました。
「一国一城(いっこくいちじょう)の主(あるじ)になってみせる」
「いや、百万石(ひゃくまんごく:一石は米約150kg、エ江戸時代までの経済の単位は、米の生産量を示す石高であらわされた)の大名だ」
「男とうまれらからには天下を取ってみたい」など、皆、意気盛んです。
下剋上(げこくじょう:身分の低いものが身分の高いものに実力で打ち勝つこと)の
戦国乱世を生き抜かなければなりませんから、大した気概です。
さて、秀吉の番になりました。
「俺は信長様にお仕えし、苦労に苦労を重ね、今、ようやく三百石の俸禄(ほうろく:給料のこと)を頂く身になった。あともう三百石、加増してもらえるようがんばりたい」
あまりにも小さな夢だったので、友人たちは、ドッと笑いました。
「男なら、もっとでっかい夢を持ったらどうだ」
秀吉は、みなを制して言いました。
「おまえらは、所詮、かなわぬことばかり言っている。
地に足をついていない目標だから、焦って空回りするばかりだ。
そうすると、夢がかなわぬことへの愚痴や不平、不満を言うようになる。
そういうことを言うようになると、あきらめてしまってもう向上はない。
だが、俺は手の届くことを言っている。
今、自分がいただいている仕事に全力を尽くせば、必ず認められる。
やるべきことがはっきりしているから、日夜、寝食を忘れて没頭できるのだ。
一つの目標が成就したら、その喜びをもとに、また、次の仕事に集中していく。
一歩一歩、着実に積み重ねていけば、予想以上の結果が得られるだろう。」
貧しい農家に生まれた秀吉が、信長の草履取り(はきもの係)となり、
織田家の武将としての頭角をあらわすまでに、どれだけの下積みの苦労があったことでしょう。
出精しても、常に、与えられた自己の場で全力を尽くす姿勢を持ち続けたからこそ、
天下人にまで昇りつめることができたのでしょう。
もし、秀吉が最初から、
「天下を取ろう」
「関白(天皇に次ぐ位で貴族の最高位)になろう」
などと思っていたら、どこかで無理をして挫折するか、失意の中で倒れていたことでしょう。
さて、みなさんにも目標があるとおもいます。
すでに将来の夢を持っている人、まだ持っていない人、さまざまいるとおもいます。
ただ、その目標や夢が、あまりにも大きすぎたり、
今の自分の現状からかけ離れすぎたりしてはいませんか?
さらに、夢や目標は大きくてもよいかもしれませんが、
それを実現するための目の前のことをないがしろにしていませんか?
一つ一つ、足元を固めて努力していくことが大切がと思います。