人はあこがれをもってそれに向かっていこうとするときがあります。
しかし、どんなに頑張ってもなれないときもあります。
ただ、あこがれにならなくても自分の価値に気づいてほしいとおもい、
そのたとえに青森県の木に指定されている「ヒバ」にまつわるお話です。
先にもいいましたが、「ヒバ」は青森県の木に指定されている針葉樹(木)であります。
しかし、その生息地が山岳地帯であることから、
くわしい生態や特性が一般にはよく知られていません。
ヒバは、日本特産の「アスナロ」という木の一種が、
北の青森県の風土に適応して進化したもので、とくに「青森ヒバ」という名で呼ばれています。
現在、下北半島、津軽半島および八甲田山系の一部に広大な天然林が残っており、
日本三大美林の一つとなっています。
ヒバは、成長すれば直径が1m、高さが30mという大木になります。
ヒバの最大の特徴は、その成長の遅さにあります。
年輪の幅で1年に2mmか3mmしか成長せず、直径4cmになるのに20年、
林木として活用できる直径80cmになるのに300年と、
気の遠くなるような年月がかかります。
しかし、この成長の遅さがこの木の質をち密なものとし、
耐久性や防虫性を抜群のものとしました。
製材すると美しい木肌が現れ、かぐわしい香りが漂ってきます。
耐久性は500~1000年と極めて長く、岩手の中尊寺金色堂、
青森県では岩木山神社楼門などの寺社建築に使用されているほか、
住宅の建築材・家具材・彫刻材・漆器の木地材などとして活用されています。
ヒバは木材として第一級の価値がありながら、全国的にみれば、
これまで正当な評価を受けてきませんでした。
それはアスナロの仲間ということから、「明日は檜(ヒノキ)になろう。明日は檜になろう」と
頑張る気、というイメージがいつのころからか作られたからです。
しかし、ヒバはどんなにがんばってもヒノキにはなれません。
これでは、ヒバは常に二流の木、ということになります。
ですが、これは大変な間違いなのです。ヒバとヒノキは別の種類の木であり、
ヒバがヒノキに劣るということはまったくありません。
したがって、ヒバは、ヒバとして一級の価値がある、
「明日ヒノキになる必要がない木」なのです。
ヒバは3月になると、春まだ遠い山奥で、吹き荒ぶ雪の中で、葉の裏に小さな花を咲かせます。
そこに風に乗って黄砂のようにサーッと花粉が降りかかります。
これは、太古の昔から人知れずに繰り返されてきた種の保存の儀式です。
このようにたくましいヒバの生命力は、それを知った人間に大きな感動を与えてくれます。
人は長い人生を歩んでいかなければなりません。
その支えとなるのは自分という人間に対する誇りであり、郷土に対する誇りです。
青森県という北の大地にうまれた方は、ヒバのたくましさを自分のたくましさとして、
非番の誇りを自分の誇りとして、じっくりと時間をかけて磨き、
一度の人生が実り多くあるよう努めていただきたいです。